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2023-09-16 来源:乌哈旅游
こころ 夏目漱石

「幸福な家庭はすべてよく似よったものであるが、不幸な家庭はみなそれぞれに不幸である。

上 先生と私

私(わたくし)はその人を常に先生と呼んでいた。だからここでもただ先生と書くだけで本名は打ち明けない。これは世間を憚(はば)かる遠慮というよりも、その方が私にとって自然だからである。私はその人の記憶を呼び起すごとに、すぐ「先生」といいたくなる。筆を執(と)っても心持は同じ事である。よそよそしい頭文字(かしらもじ)などはとても使う気にならない。

私が先生と知り合いになったのは鎌倉(かまくら)である。その時私はまだ若々しい書生であった。暑中休暇を利用して海水浴に行った友達からぜひ来いという端書(はがき)を受け取ったので、私は多少の金を工面(くめん)して、出掛ける事にした。私は金の工面に二(に)、三日(さんち)を費やした。ところが私が鎌倉に着いて三日と経(た)たないうちに、私を呼び寄せた友達は、急に国元から帰れという電報を受け取った。電報には母が病気だからと断ってあったけれども友達はそれを信じなかった。友達はかねてから国元にいる親たちに勧(すす)まない結婚を強(し)いられていた。彼は現代の習慣からいうと結婚するにはあまり年が若過ぎた。それに肝心(かんじん)の当人が気に入らなかった。それで夏休みに当然帰るべきところを、わざと避けて東京の近くで遊んでいたのである。彼は電報を私に見せてどうしようと相談をした。私にはどうしていいか分らなかった。けれども実際彼の母が病気であるとすれば彼は固(もと)より帰るべきはずであった。それで彼はとうとう帰る事になった。せっかく来た私は一人取り残された。

学校の授業が始まるにはまだ大分(だいぶ)日数(ひかず)があるので鎌倉におってもよし、帰ってもよいという境遇にいた私は、当分元の宿に留(と)まる覚悟をした。友達は中国のある資産家の息子(むすこ)で金に不自由のない男であったけれども、学校が学校なのと年が年なので、生活の程度は私とそう変りもしなかった。したがって一人(ひとり)ぼっちになった私は別に恰好(かっこう)な宿を探す面倒ももたなかったのである。 宿は鎌倉でも辺鄙(へんぴ)な方角にあった。玉突(たまつ)きだのアイスクリームだのというハイカラなものには長い畷(なわて)を一つ越さなければ手が届かなかった。車で行っても二十銭は取られた。けれども個人の別荘はそこここにいくつでも建てられていた。それに海へはごく近いので海水浴をやるには至極便利な地位を占めていた。

私は毎日海へはいりに出掛けた。古い燻(くす)ぶり返った藁葺(わらぶき)の間(あいだ)を通り抜けて磯(いそ)へ下りると、この辺(へん)にこれほどの都会人種が住んでいるかと思うほど、避暑に来た男や女で砂の上が動いていた。ある時は海の中が銭湯(せんとう)のように黒い頭でごちゃごちゃしている事もあった。その中に知った人を一人ももたない私も、こういう賑(にぎ)やかな景色の中に裹(つつ)まれて、砂の上に寝(ね)そべってみたり、膝頭(ひざがしら)を波に打たしてそこいらを跳(は)ね廻(まわ)るのは愉快であった。

私は実に先生をこの雑沓(ざっとう)の間(あいだ)に見付け出したのである。その時海岸には掛茶屋(かけぢゃや)が二軒あった。私はふとした機会(はずみ)からその一軒の方に行き慣(な)れていた。長谷辺(はせへん)に大きな別荘を構えている人と違って、各自(めいめい)に専有の着換場(きがえば)を拵(こしら)えていないここいらの避暑客には、ぜひともこうした共同着換所といった風(ふう)なものが必要なのであった。彼らはここで茶を飲み、ここで休息する外(ほか)に、ここで海水着を洗濯させたり、ここで鹹(しお)はゆい身体(からだ)を清めたり、ここへ帽子や傘(かさ)を預けたりするのである。海水着を持たない私にも持物を盗まれる恐れはあったので、私は海へはいるたびにその茶屋へ一切(いっさい)を脱(ぬ)ぎ棄(す)てる事にしていた。

もとより 1 【元より/▽固より/▽素より】(副) (1)いうまでもなく。もちろん。 「失敗は―覚悟していた」「罪は―ぼくにある」 (2)昔から。初めから。以前から。

「後涼殿に―さぶらひ給ふ更衣の曹司を他に移させ給ひて/源氏(桐壺)」 (3)もともと。元来。

「ふなぎみの病者―こちごちしき人にて/土左」 ひかず 0 【日数】

(1)日にちの数。にっすう。 「―を重ねる」

(2)死後四九日目。また、その法要。

へんぴ 1 【辺▼鄙】 (名・形動)[文]ナリ

都から遠く離れていて不便な・こと(さま)。 「―の地」「―な寒村」

ハイカラ 0目新しく、しゃれていること。西洋風なこと。また、そのさま。そのような人をもいう。なわて なは― 0 【▼畷/縄手】 (1)田の中の細道。あぜ道。なわてじ。なわて道。 (2)まっすぐな長い道。 くすぶ・る 3 【▼燻る】 (動ラ五[四])

(1)火がよく燃えずに、煙ばかりが多く出る。くすぼる。 「生乾きの枝が―・る」

(2)すすのために、黒くなる。すすける。くすぼる。 「―・った天井」「―・つた茶わんが出た/洒落本・駅舎三反」 (3)家や田舎に引きこもって、目立った活動もしないで過ごす。世にうもれている状態で暮らす。

「実家で―・ってる」

(4)もめごとなどがはっきりした解決をみないままになっていて、再び表面化しそうな状態である。

「執行部に対する不満が―・っている」

(5)地位・境遇などが向上しないままでいる。 「平(ひら)で―・っている」 〔「くすべる」に対する自動詞〕 わらぶき 0 【▼藁▼葺き】

屋根を藁で葺くこと。また、その屋根。いそ 0 【▼磯】(名)(1)岩石の多い、海・湖などの波打ち際。 (2)水際の岩石。

「―の間ゆ激(たぎ)つ山川絶えずあらば/万葉 3619」せんとう ―たう 1 【銭湯/洗湯】 料金をとって一般の人々を入浴させる浴場。ふろや。湯屋。公衆浴場。 ごちゃごちゃ 1 (副)スル

(1)多くの物が秩序なく入り乱れているさま。 「旧市街は―(と)している」

(2)あれこれ不平・不満を言い立てるさま。 「―言うな」 0 (形動) (1)に同じ。

「引き出しの中が―だ」「―に散らかす」 ねそべ・る 3 【寝そべる】 (動ラ五[四])

ごろっと腹ばいになったり横になったりする。 「―・ってテレビを見る」

ざっとう 0 ―たふ 【雑踏/雑▼沓】/ ―たう 【雑▼鬧】 (名)スル 人々が大勢集まってこみあうこと。人ごみ。 「―にまぎれて姿を消す」「花見の人で―するから煩(うるさ)い/一隅より(晶子)」 かけぢゃや 2 3 【掛(け)茶屋】

道端などに、よしずなどをかけて簡単に造った茶屋。茶店。よしず 0 【▼葦▼簀/▼葭▼簀】

葦の茎を編んで作った、すだれ状のもの。立てかけて日除け、目隠しなどに用いる。よしすだれ。[季]夏。

かま・える かまへる 3 【構える】

(1)(形や内容を整えて)立派に作り上げる。組み立てて作る。 「門を―・える」「店を―・える」「一家を―・える」 (2)ある姿勢や態度をとって相手に対する。 「飛び掛かろうと―・えている」「ストを―・える」 (3)武器を手にして、身のそなえとする。 「銃を―・える」「刀を上段に―・える」 (4)作り事をする。 「口実を―・える」「虚言を―・える」 (5)仕組む。たくらむ。 「事を―・える」「帝を傾け奉らむと―・ふる罪によりて/栄花(月の宴)」 (6)(物事に備えて)ある態度をとる。 「低く―・える」「のんびり―・える」「お高く―・える」「斜に―・える」「―・えず気楽

に聞いて下さい」

〔中世にはヤ行にも活用した。「野心ヲ―・ユル/日葡」。「構う」に対する他動詞〕 こしら・える こしらへる 0 【▼拵える】 (1)物を作り上げる。製作する。 「夕飯を―・える」「自分で洋服を―・える」「条文の草案を―・える」「竹を編んでかごを―・える」「財産を―・える」「多額の借金を―・える」 (2)ある目的のために金などを用意する。調達する。 「家を売って資金を―・える」

(3)身なりや顔をととのえる。装う。化粧する。また、扮装する。 「楽屋で顔を―・える」「気は進まぬながらも薄く―・へて/魔風恋風(天外)」 (4)物を食べて腹を満たす。腹ごしらえをする。 「安料理屋で腹を―・へ/ふらんす物語(荷風)」

(5)相手をだますために、もっともらしい話や理由を作り上げる。 「うまい話を―・えて金を出させる」「後家へ目を附けて、事情甚だ憐む可しなど旨く道理を―・へるぞと/鉄仮面(涙香)」 (6)友人・愛人などをつくる。 「愛人を―・える」

(7)構えを作る。構築する。建設する。

「平家は舟を二三重に―・へたり/平家(六本・延慶本)」「外の塀をば切て落とす様に―・へたりければ/太平記 3」

(8)手だてを設けて相手を誘う。

「―・へてかりのやどりに休めずは誠の道をいかでしらまし/後拾遺(雑六)」 (9)あれこれ、言葉をかけて機嫌をとる。なだめすかす。

「よろづに―・へ聞え給へど、…、露の御答(いら)へもし給はず/源氏(葵)」

ぜひとも 1 【是非共】 (副)どうしても。かならず。ぜったい。ぜひに。 「―来てほしい」「今度は―勝つぞ」

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